2003年の11月、私は「WIZARDRY」というゲームを舞台にしたWEB小説を読み漁っていました。
薄暗くて黴臭い地下世界に足を踏み入れる冒険者たちの血沸き肉躍る冒険譚がたまらなく好きだったのです。
きっかけはベニー松山氏の「隣り合わせの灰と青春」というWIZARDRY1をベースにした小説を読んだ事でした。
何度も読み返してしまうくらい、WIZARDRYの世界に引きずり込まれました。
そして、当時は無限に広がっていると信じてやまなかったWEBの世界にWIZARDRY小説を求めていったのです。
今でこそ「WIZARDRY風の小説」を探そうと思えば、カクヨムや小説を読もうなどの投稿サイトにたくさんの作品が見つける事ができます。
迷宮クソたわけ、迷宮保険、侍は迷宮を歩くなどなど、無料で読ませてもらって良いのですか!というような大変面白い作品たちを楽しませていただいてます。
しかし私がWIZARDRYのWEB小説を漁っていた2003年当時は上記のような小説投稿サービスはなく(少なくとも私は知りませんでした)、もっぱらそれぞれの個人サイトにて作品を読むことができました。
WIZARDRYは洋風ファンタジーの世界観なので、それに基づいて作られるWEB小説たちもロングソードやラージシールド、それにカタカナの魔法なんかが出てきます。登場人物たちもいわゆる外国人風の名前でした。
様々な個人サイトにお邪魔しては、そんな洋風ファンタジー色の濃いWIZARDRY小説を楽しんでおりました。
そんなある日、私は「和風WIZARDRY純情派」なる作品を掲載しているブログに出会いました。
その作品は今までのWIZARDRY小説における洋風ファンタジー設定を覆し、舞台を日本に置き換えていました。
出てくる登場人物はほぼ全員日本人(姓名は割と凝った作りでしたが)ですし、恐ろしい化け物が現れる地下迷宮は京都市北部の比叡山のふもとなのです。
そして、その地下迷宮を探索するのは警察でも自衛隊でもなく、一般公募で集められた私たちと同じ一般人なんです。(一部、チートキャラもいます)
WIZARDRYというゲームは、初期段階で作るキャラクターは非常に弱く、油断しているとあっという間に力尽きて死んでしまいます。
ドラゴンクエストのような選ばれた勇者でもなく、ファイナルファンタジーのような優れた力を持つ主人公でもない、ただの一般人が度重なる戦闘や探索を経て強くなっていくそのハック&スラッシュに中毒性のようなものがあるのですが、この和風WIZARDRY純情派ではそういったレベル1からのスタートをとても上手に表現していると思います。
そして群像劇というだけあって、登場人物が大変多いです。勇者や英雄ではない私たちと同じ一般人の彼彼女らがさまざまなバックボーンを背負って迷宮へとやってきます。
迷宮の入り口には「迷宮街」と呼ばれる探索者が生活するための街があります。色んな性格の登場人物たちがこの街で生活し、そして迷宮へと潜っていきます。
そこには登場人物それぞれの毎日がありドラマがあります。メインの主人公は決まっているのですが、群像劇として色んな登場人物にスポットライトが当たります。
修練上で腕を磨き、迷宮内では命がけで戦います。街の酒場では賑やかな酒盛りが毎夜行われ、迷宮探索者同士の刹那的な恋もあります。
そして愛すべき登場人物たちはあっけなく死んでいきます。どんなに強くとも本当に本当に突然訪れる死。迷宮街で迷宮に潜っている以上、死は本当にすぐそばにあります。そして、現実と同じように死んでしまったら二度と生き返る事はありません。
自分のお気に入りの登場人物が出てくる回は、その人が死んでしまわないかと毎回ドキドキハラハラとさせられます。
この辺もまさに死と隣り合わせのWIZARDRYというゲームにぴったりです。
この「和風WIZARDRY純情派」は、真壁啓一という主人公がとある事情で迷宮街にやってきたところから始まります。
真壁啓一が自分目線で迷宮街での日々をブログに書いたものを自分たちが読んでいる…という設定がとても斬新で素晴らしかったです。
夏の厳しい暑さも少しだけ緩んできたこの季節、もう一度初めから「和風WIZARDRY純情派」の世界に旅立ってみようかと思います。
現在は「Wの跡地」というブログ名になっていますが、今でもこの小説を楽しむことができます。ブログ形式でストーリー本編だけでなく、設定資料のログなども混じっているので少し読みにくいですが、1日ずつゆっくりとドキドキハラハラしながら読み進めていくのも一興ですね。
Wの跡地
↓のリンクから1話目に飛べます。